木くずが原因で起こった裁判

木くずの再利用を検討している際に気を付けたいのが、「廃棄物処理法」です。というのも、過去には木くずの取り扱い方法を巡って起きた裁判があるからです。資源を再利用するビジネスなどを始めたいと考えている場合は、実施前に、その再利用方法が訴えを起こされるような原因となってしまわないかどうか、判例をもとにチェックしておきましょう。

廃棄物の定義を決めるのは困難?

木材の産業廃棄物は、さまざまな業者から排出されています。建設会社や家具製造会社、林業、木材輸入業、パルプ製造業、紙加工品製造業など、きわめて多岐にわたります。再利用やリサイクル、地球にやさしいカーボンニュートラル燃料などの取り組みが広がりつつある中で、これらの業者が排出する余った木材、つまり産業廃棄物の取り扱いにおいても、さまざまなルールや優遇制度などが新設されているのが現在の状況です。

ビジネスに新規参入しようと考えている人は、木くずなどの産業廃棄物を扱う場合の規則や法律、そして取得が必要な許可などを把握しておく必要があります。

その際、とくに注意しておきたいことが、何度も改正が行われ、難解な面もある「廃棄物処理法」の内容だけでなく、「産業廃棄物」の定義は、容易には定義できないという点。この語がもつ意味は、解釈の仕方や時代の流れとともに移り変わる価値観によって左右されてきたからです。

では、木材の廃棄物を取り扱いに関するトラブルを回避するためには、具体的にどうすべきでしょうか。ぜひおすすめしたいのは、「廃棄物という語の定義のあいまいさ」が原因のひとつとなって実際に起こった裁判について、その経緯および下された判決の根拠を理解しておくことです。

ここからは、参考になる裁判事例として「水戸木くず裁判」と「徳島木くずボイラー裁判」について、それぞれ詳しく見ていきます。

水戸木くず裁判

木くずなどの建設廃材の処理作業を有料で引き受け、それを木材チップに加工・販売する行為が、産業廃棄物処理業にあたるかどうかが争われた裁判です。

裁判が起こった原因

産業廃棄物収集運搬業許可を取得済みの、とある解体業者(以降の文中でこの解体業者を指す際は「解体業者A」と表します)は、住宅の解体作業や廃棄物を片付ける作業を行っている会社です。

解体業者Aは、作業中に引き受けた木くずなどの木材の処理を、とある破砕業者(以降の文中でこの破砕業者を指す際は「破砕業者B」と表します)に依頼していました。もちろん解体業者Aは破砕業者Bに、処理料金を支払っていました。破砕業者Bは、受け取った木くずを、製紙用チップ(これを薬品で煮込むとパルプができます。ちなみに、パルプは紙の原料です。)、および合板用チップ(さらに薄く切削し、圧縮をほどこすと、合板にります。)へと加工し、販売を行っていました。

破砕業者Bは、解体業者Aから引き受けた木くずを不法投棄するなどしたわけではなく、チップに加工して販売しただけですから、一見なんの問題もないように思われます。けれども、問題視され、裁判にまで至ってしまったのです。なぜでしょうか?それは、破砕業者が、産業廃棄物処理業許可を受けていなかったためです。

産業廃棄物をチップに加工する作業を行うためには、産業廃棄物処理業許可が必要なのです。解体業者Aから引き受けた木くずは、たしかに、産業廃棄物であるという認識が一般的だといえます。この認識が正しいのであれば、破砕業者は法律を犯してしまったことになります。

けれども、視点をかえると、別の解釈もできるのではないでしょうか。木くずは、加工すると製紙用チップや合板用チップに生まれ変わります。そして、チップは販売すると、その対価として利益を得られる商品です。つまり、利益を産む商品の原料であることを考え合わせると、木くずは、廃棄物ではなく有価物となるはずです。有価物をチップ化する際には、産業廃棄物処理業許可を受ける必要がありません。この解釈のもとでは、破砕業者Bは、何ら法律違反を犯していないことになります。

判決

この問題について、司法はどのような判断を下したのでしょうか。下された判決は、「破砕業者Bは違法行為をしていない」という旨の内容でした。つまり無罪判決が出たのです。第一審の地方裁判所は、木くずが産業廃棄物ではないと判断しました。

産業廃棄物でないならば、産業廃棄物処理業許可を受けていなくても、木くずに加工をほどこしてチップ化しても問題がないため、破砕業者Bは無許可営業を行ったとはみなされないという考えのもとの判断のようです。

解体業者の訴えが認められなかった理由

木くずは、産業廃棄物であるという解釈も可能ですが、同時にチップなどの製品の原料であるという解釈でもおかしくないことがわかりました。このように、解釈や見方によって木くずの定義が揺らぐ状態について、地方裁判所は「法的安定性を著しく欠くもの」として問題視しています。たしかに、木くずの定義がケースごとに異なるようでは、今後のビジネスにおいても困りますね。

200年ほど前までの時代では、木材は燃料として中心的な役割を担っていたため、100人いたら100人が木くずを有価物とみなしていたでしょう。そのような時代で今回と同じような問題が起きていれば、破砕業者Bの行為は議論の対象にすらならなかったはずです。

仮に産業廃棄物処理業許可の制度がその時代にあったとしても、許可を受ける必要は全くなかったことになります。けれども、化石燃料などが主な燃料として長い間活用されてきた現代ではどうでしょうか。たしかに、エコな燃料として木質燃料が注目を集めつつありますが、充分に普及したといえるほどの状況にはまだ至っていません。ですから、木くずに対する解釈にゆらぎが生じる事態になってしまったのは、ごく自然な流れと言えるでしょう。

さて、現代における木くずの位置づけを「法的安定性を著しく欠くもの」とした地方裁判所ですが、破砕業者Bに違法性がないと判断(つまり木くずが有価物であると判断)するに至った根拠は何でしょうか。それは、「一連の経済活動において、取り引きを行った当事者たちが木くずに価値があるとみなしているかどうか」を基準としたことに拠ります。

この判例から学べること

破砕業者Bの行為が問題なしと判断されたということはつまり、場合によっては木くずを有価物だと認めるというメッセージだと捉えてもよいでしょう。ただ、この判例から特に学んでおきたいのは、当該物(今回のケースでは木くずがそれにあたります)の取り引きがビジネスとして成立しているか否かによって、当該物が「廃棄物」であるか「有価物」であるかが決まる、という判決基準が示されたという点です。

解体業者Aが高等裁判所へ上告

地方裁判所では、破砕業者Bが無罪判決を受けたわけですが、裁判はそれで全てが終結したわけではありませんでした。地方裁判所が下した判決内容に納得がいかないと感じた解体業者Aが、高等裁判所に対して、以前、簡易裁判所で下された罰金刑の取り消しを求め、上告したのです。解体業者Aが簡易裁判所で罰金刑(50万円)に処せられたのは、無許可業者へ廃棄物の処理を委託したと判断されたからです。無許可業者というのは、産業廃棄物処理業許可を受けていなかった破砕業者Bを指しています。その時、破砕業者Bも解体業者Aと同様の罰金刑を言い渡されたのですが、破砕業者Bはこれを拒否し、地方裁判所に控訴したのです。その結果は、先述のとおり、無罪となりました。この結果を受けて、解体業者が不満を感じたわけです。不満に感じるのももっともだといえます。廃棄物の処理作業を請け負った側が無罪なら、依頼した側も当然無罪になるはずだという主張はきわめて明確です。

けれども、高等裁判所は、海外業者Aの訴えを退けました。「木くずは廃棄物なので、簡易裁判所が出した判決は正しい」としたのです。なぜでしょうか。破砕業者Bに対しては、「引き受けた木くずを使って、再利用につなげるビジネスが成り立っている」という判断のもと、木くずを有価物ととらえ、無罪判決をだしました。けれども解体業者Aの行為は、ビジネスとして成り立っていないと判断されてしまったのです。解体業者Aが破砕業者Bに処理を依頼した木くずの分量が問題視されたのです。木くずの分量が、破砕業者Bの処理能力を上回っていたため、うずたかく積もった木くずの山が原因で発火するなどのトラブルなどが生じていたという背景もありました。

そのような扱いをせざるをえない状態をつくってしまった時点で、木くずを有価物として扱っているとは考えがたいと判断されたのです。そのため、ビジネスとして成立しているとも、当然認められませんでした。いいかえれば、この裁判においては木くずを、有価物だと認められるような別の方法で適切に扱っていれば、罰金刑をひるがえし、無罪を勝ち取れた可能性もあるのです。

徳島木くずボイラー裁判

自社業務の過程で発生した木くずをボイラーの燃料として使用していた企業が、「廃棄物処理法」を守っていないとして、県からいくつかの処分をくだされました。そのため、その企業が県を相手取って、処分取り消しを求めて起こした裁判です。

裁判が起こった原因

徳島県で内装ドアユニットなどの木製品の製造を行っている企業(以降の文中でこの企業を指す際は「企業A」と表します)が、製造工程ででる木くずを、自社のボイラー設備の燃料として再利用していたことを徳島県が問題視しました。

企業Aに対し、設備の改善と使用停止命令、さらに設置許可の取消処分を決定したわけですが、企業Aの行為のどこがいけなかったのでしょうか?

ボイラーの燃料として自社内で利用する場合の木くずについて、徳島県は、産業廃棄物であると判断したのです。産業廃棄物であるならば、廃棄物として別の方法で処分しなくてはならなかったため、たしかに廃棄物処理法による産業廃棄物処理施設としては不適切な運転がなされたことになります。

総合判断説で示された基準にのっとった判決

司法はどのような判決を下したのでしょうか。判決内容は、「今回のケースでは、木くずは廃棄物には該当しない」というものでした。この判決がなされた根拠は、この裁判より前に行われた別の裁判の判決で示された「総合判断説」の基準を、企業Aが全項目においてクリアしていたことです。では、5つの基準をそれぞれみていきましょう。該当物件に木くずをあてはめて説明していきます。

判断基準1.その物の性状

発生した木くずを、実際にボイラーで燃料として利用しており、また、木くずは動物の排泄物や食品の食べ残しのように保管したり焼却したりすることで悪臭などを発生させる可能性が低いためです。

判断基準2.排出の状况

木くずの発生が問題なしと認められるためには、木くずの発生が需要に対応し、かつ計画的なものであり、また、適切な保管と品質管理が行われている必要があります。この基準に照らし合わせて今回の木くずの状況を考えると、木くずは木製品を製造する過程で「生じてしまうもの」であり、「需要を満たすべく計画的に生じさせたもの」ではないため、この基準をクリアしていないという見方が可能です。

けれども、裁判所は、木くずが企業Aの製造作業による「副産物」である点、さらに、企業Aが、一定量の木くずが溜まるタイミングで、密閉された炉の中に供給するなどの適切な管理を行っていた点を考慮したようです。需要に沿って計画的に木くずを発生させたわけではない、という事実については、「ことさら取り上げる必要性が認められない」と判断されました。

判断基準3.通常の取扱い形態

「木くずの通常の取扱い形態が適切である」と認められるためには、木くずが一定以上の規模で市場取引されていなくてはなりません。今回の木くずの場合は、その点をクリアしていないという考え方もあります。

ただ、このケースでは、木くずを自社内で再利用しているので、市場価値があるのかどうかという点については判断基準に入れなくてもよいとされたのです。「自社の木くずを燃料として使用する限りにおいては、その木くずは廃棄物とはみなされない」とする裁判判決の実例が、「廃棄物とみなされる」とする実例よりも多かったのも今回の判断の根拠の一つになっています。

判断基準4.取引価値の有無

裁判所は、自社で木くずを再利用する場合は、取引価値の有無に関しては「自社で再利用する価値があるかどうか」で判断するべきだとし、今回の木くずにはその価値があると認定されました。

判断基準5 事業者の意思等

木くずの処理を破砕業者などに依頼すると、自社工場でボイラー燃料として再利用する場合と比較し、かなり多くのコストがかかります。裁判所側も、企業Aがコスト削減を理由のひとつとして自社で処理を行った可能性は否定できないという見解をもっています。けれども、それが唯一の理由だったとは断定できないとし、「事業者の意思等」についても問題なしと判断されるに至りました。

この判例から学べること

いくつかの判断基準において、企業Aにとっていくらか有利な解釈が行われているように感じられるかもしれません。それは、裁判が「リサイクルの観点から木くずが有意義な活用のされ方をしている点」を考慮に入れた解釈をしているからだといえます。

たとえば判断基準5では、コスト削減の狙があった可能性を否定できないとしながらも、リサイクルへの積極的な取組みを高く評価しているため、コスト削減の狙いを大目に見て、無罪判決につなげたようです。つまり、裁判では、リサイクルの観点から、木くずが廃棄物であるかどうかが判断される可能性があることがわかります。

取材協力
バイオマスエナジー社の公式HPキャプチャ
引用元HP:バイオマスエナジー社公式HP
https://www.bme.co.jp/wp/

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バイオマスエナジー社

木を原料に温風や水蒸気、バイオマスガスといった新たなエネルギーとしてリサイクルする画期的手法が、木質バイオマス。しかし、これまでバイオマスを燃やすプラントには燃料の制限があり、使いたい木材に対応できないというものばかりでした。

そうしたなかで、どんな木でも燃やせるプラントを誕生させたのが、バイオマスエナジー社です。当サイトでは、唯一無二のプラントを持つバイオマスエナジー社(2019年7月現在)に取材協力を依頼。実際にどんなプラントなのか、そしてコスト削減はどれくらいか。現地取材しレポートにまとめたので、ぜひご覧ください。

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